晴れた午後、机で読書しているとひばりの声が聞こえる。
机に向かっても何となく集中できなくて倦怠感に包まれかけたとき、突如その音が上がるのだ。
気怠さと疲弊と閉塞感のなかに埋没しかけ、世間の常識や日常の決まりごと、漠然と将来に対して抱く行き詰まり感に絡め取られたままの状態がこの先ずっと続くかと思われたそのときに。
鋭く上がるそのひと声で、遠い時間が思い起こされる。
一瞬のなかに世間や社会を離れた遠い世界を垣間見せてくれる響きである。
たとえば映画の一場面を。
エンタメ系ではない、ドキュメンタリーや古典的な名作の一瞬を。(なぜかタルコフスキーの『ノスタルジア』が想起される。)
若き名手が爪弾くギターの旋律を。
休日の誰もいない空き地に突如吹き渡る風が起こす、草の輝きを。
日々濃くなる新緑のなかに、風に揺さぶられた葉の隙間から木漏れ日の射すときを。
若い日に何某かを目指して一心にある対象に傾注する態度を。
一瞬でありながら永遠を思わせるひとときを。
五月は新緑が美しい。
昼下がりに、夕方に、そういう一瞬を探すためだけに周りに注意を向けるのもいいかもしれない。