いわきび、森の明るみへ

四国の片隅から働き方や住まい方を再考しています。人生の時間比率は自分仕様に!

さよならロールパン

遅く起きた休日の食卓でバターロールを口に含む。外は穏やかで、平日の職場の殺伐とした忙しさとは別世界だ。

一袋に5個入りで百円強のロールパン。プレーン以外にも種類があって、私はいつもマーガリン入りの分を買っていた。残業の御供だったからだ。当初は机の引き出しにカロリーメイトのようなバランスバーをいくつか買い置きしてあったのだが、腐らないのはよいとして、包装を解くのが面倒かつゴミが多く出ること、もう少しちゃんとしたものを食べたい気持ちのためにパンを買い置きするようになった。


平日の超過勤務はだいたい月43時間を超えた。多い月には60時間以上。そんなふうだから合間を見て何か食べておかないととても頭が働かない。このロールパンはいわば「残業メシ」で、深夜コンビニで見かけると必ず買うようになった。

職場は他にも団体が借りている建物の一室に在って、最終退出になるときは全ての戸締りとセキュリティをセットして帰らなくてはならない。長い夜になりそうなときは、誰も居なくなった部屋の自席でバターロールの袋を開ける。セブンイレブンで売ってる分にはストッパーのテープまで付いていて少しずつ食べるのに最適だったが、結局いつも一度にひと袋ぜんぶ食べてしまっていた。


マーガリン入りのバターロールも全粒粉でできたバランスバーも、私の好物のうちだ。そのため、それらのイメージが辛く心細い夜の残業の記憶とセットになってしまわないか懸念があった。

たとえば、小さな子が怖い注射のときに安心を得ようとぬいぐるみを握りしめる。苦い服薬の後の口直しまたはご褒美として飴を舐める。それらは
怖くて痛い記憶とセットになってしまい、大好きだったはずのぬいぐるみや飴に忌避感を抱くようになりはしないか。

だが幸いなことにそうはならなかった。なぜなら仕事を変えることにしたから。

そんなわけでバターロールはただの買い置きや朝食のパンとなった。

さようなら非常食としてのロールパン。
もうこれで切迫感をもっておまえを買わなくて済むね。
いつもの食卓や小腹がすいたときに食べられるね。

不思議な安堵と、緊張感が切れたせいと思われる無気力とに包まれる。

好きなものくらい、いつも素直に「好き」という感情でもって食べたいものだ。