いわきび、森の明るみへ

四国の片隅から働き方や住まい方を再考しています。人生の時間比率は自分仕様に!

自己完結の館

 新型コロナウイルスを封じ込めるためにロックダウンしていた都市が、徐々に封鎖を解き始めた。日本とちがい、罰則や罰金を伴う厳しい外出規制が緩和され外へ出られた人たちの喜びはひとしおだろう。

 しかしたとえ封じ込めに成功した国でも、コロナ感染拡大前と全く同じ生活を送れるわけではない。げんにあれほど検査・隔離を徹底した末コロナ禍を克服したようにみえる韓国でも、これまでとは異なる日常生活の注意点を細かくガイドライン化している。一方ろくに検査をせず、補償を伴わない自粛要請をダラダラ続けた日本は結局5月31日まで緊急事態宣言を延長することが決まった。

 これと同時に専門家会議は5月4日に「新しい生活様式」を提言した。
 
www3.nhk.or.jp

 「誰とどこで会ったかをメモにする」など、感染経路の追跡を口実に個人情報をかすめとって私生活統制を仕掛けているようにも見えるのだが。

 専門家会議は信用ならないが、ここに列挙された注意を守らないとたしかに感染リスクがある。ただ現実問題として、国がきちんと強制的に制限をかけないと満員電車も通勤も店が混む時間帯も変わらない。個人や家庭、企業ごとの責任では対応できないことだ。緊急事態宣言は当初5月6日までだったことから7日から営業を予定していた飲食店も多いはずだが、これでは経営維持のために再開する店、これを機に事業をたたむ店が増えるだろう。


 いったいこれからはどんなライフスタイルが有利なのか。自分なりに想像してみる。

 なるべく人と接触しないことがのぞましいのだから、仕事は在宅勤務できる職種・業種が有利だろう。するとデスクトップパソコンとリモート可能なノートパソコン、タブレット、プリンターの所有が必要になる。

 快適なテレワークにはそれなりの部屋が要る。ワークスペースとして機能する机と腰に負担をかけない高性能の椅子も。戸建てなら仕事部屋とそれ以外の部屋が分かれているほうが都合がよい。

 移動は、公共交通機関(今地元ではかなり空いているが)の感染リスクを恐れるなら自転車か自家用車になる。でも自家用車は購入・維持費に莫大な資金がかかるため、マイカー生活は経済的余裕がなければ始められない。
 
 対面通話はしばらく危険なので、教育・学習はオンライン授業ができる環境の整備が急務だろう。ただ幼い児童にはどうしても「つきっきりで手取り足取り」教える局面が避けられないと思う。加えて年齢が低いほど、手厚いサポート、見守り、ペースメーカー役が何らかのかたちで必要だ。オンライン環境を完璧に整備してもそれは授業ができるというだけで、学習の継続、予復習、反復練習、それをさせるための声がけ、叱咤というタスクが各家庭に任せられる。これまで学校に学習動機や託児機能を委ねてきた家庭では日々の労働と家事に加えて子どもの教育が凄い負担になっているはずだ。

 また外部化が少しずつ進んできた介護もデイサービスや介護事業所がストップすれば家庭に投げ返される可能性がある。在宅介護できるだけの設備と広さと人員と経済力ー、考えたら気が遠くなる。

 食料・生活必需品は宅配サービスで購入するほか、各国の物流や経済の停滞からの食料危機に備えて家庭菜園があれば安心だ。自家用食料を少しでも自分で栽培できたら市場価格・配送に一喜一憂しなくてすむ。

 
 …とここまで書いてみて思う。こんなこと全部できるのはよほど頭脳明晰で身体能力と経済力があり、肥沃な地方都市のやや郊外にマイホームとマイカーを所有している人でなければ無理だろう。上に列挙した条件を含めて浮かび上がるのは、ある程度の自己完結を前提とした生活様式だ。何でも自前で作り、まかない、対処できる人。そういう空間を持てる人。不完全さ、未熟さの開示を他者とつながる契機とするコミュニティ形成の道すじは選択肢から外れてしまう。

 他者とのつながり方は、SNSの普及でネットを介したつながりの方途がもうすでにあるのだけれど、まったく偶然の、新たな出会いはどうなるのだろう。

 これからは見知らぬ人とただ黙ってそばにいる、ということが簡単にできなくなる。

 ならば、今まで過剰につながりだの参加だのを規範としてきた人間関係を見直し、過剰消費にねざした経済活動から距離をおき、活動そのものをペースダウンして密度を下げるのが一つの活路かもしれない。集団と距離をおき、他者と距離を保ったうえであらためて見出す他者との接点は、かえって虚礼を廃して原点に還ったつき合い方を可能にするかもしれない。

 各人がつくりだす自己完結の館にどんな光が射すのか、これから進んでみなければわからない。