前に書いた、新しく農業を始める方が近況を話してくれる。
最近進めているのは家のリフォームだそう。これから住むのは数年間空き家として放置されていた物件で傷みも激しく、あちこち修理しないと使えない。ホームセンターで道具を買ってきて、床板の張り替え、玄関の鍵穴やトイレの金具、触ると崩れる屋根のへりなどを一生懸命直しているという。
そんな中、興味深かったのは壁の塗り直しだ。新居は壁の一部も傷んで漆喰が剥がれていたので、ご自身で塗り直したそうだ。初めての経験だったが思いの外簡単にできたと言う。何でもネットで検索して缶入りの漆喰を入手したところ、容器を開けたらすでにペースト状の塗料が入っていてあとは塗るだけの状態だった。むろんプロの職人の技とは雲泥の差だろうが、素人が特にこだわりをもたず家を修理をするには十分だったとか。時間が経つにつれ変化する壁の色味を写真で見せてもらいながら、今はその気になればDIYの条件はけっこう整うものだなあと感心した。
自分の手で生活を作ること。最初は失敗しても、自ら選び決めて自分の手でモノや道具、住まいをより良く作り変え、完成させていくこと。DIYの醍醐味はそこにある。
でも、いったいどこからを「自分で」と言い得るんだろうか。今回その方が住まいを自分で修理できたのは、ホームセンターに道具があって、ネット販売であらかた合成された「出来合いの」商品が売られていたからでもある。もちろん本人も技術を身につける必要はあるが、それはふだんの家事でも同じことではないのか。
たとえば炊事の場合、どこからを「おうちで」「自分で」と言うのだろう。
食材を切るところから?手に入れるところから?火を通すところから?
ミールキットは自炊に入らないのか?
材料の一部に冷凍食品を解凍して取り入れることは?
家族ではない、家政婦や家事代行者、やヘルパーさんの作った食事なら?
おそらく食材の入手から調理、食卓に乗せるまでを全て自前でやれる人なんて、都市生活ではかなり限られる。
しかし、自分や家族の食や暮らしに責任ある態度はとれるだろう。信頼できる店や会社や家事労働者を調べ、適正な料金を払って活用する。食の安全を本当に賢い消費者がその流れを作っていくこともできたはずだ。
何もかも自宅に抱え込むこと。自力へのこだわり。それらの歪さと同時に、それらを成り立たせていることに、案外DIYは気づかせてくれるのかもしれない。