いわきび、森の明るみへ

四国の片隅から働き方や住まい方を再考しています。人生の時間比率は自分仕様に!

大崎玄長『やりたいことを仕事にするなら、派遣社員をやりなさい!』から考えたこと

祝福を。働き方を変えるにあたって読んだ本をご紹介します。

やりたいことを仕事にするなら、派遣社員をやりなさい! | 大崎 玄長 |本 | 通販 | Amazon

 むろん、派遣社員への劣等処遇は今も残っているでしょうし、派遣先や派遣会社もピンキリです。2007~8年に世論を賑わせた登録型派遣のあざとい実態や、09年始の派遣村、働く貧困層の現実がクローズアップされた衝撃を覚えておいでの方には「派遣」というだけで避けるべき、と思ってしまうかもしれません。が、時代は変化しかつては不安定雇用とされてきた労働もだんだん市場が整ってきて、何より「正社員がいいとは一概に言えない時代になった」(134頁)という指摘はまったくその通りで、本書はなぜそう言えるのかを丁寧に教えてくれる本でもあります。

目次

 エピソードにみる世相

 第1章には派遣労働を通して自分に合った働き方を見つけ、自分らしい人生を生きている方々のエピソードが並んでいます。派遣で働き始めたきっかけはさまざま。独立開業の資金づくり、芸能界で日の目を見るまでの生活基盤に、子連れ離婚後の生活費を得るため、親の介護をしながら少ない勤務日数で働けるから、15年間のニート生活から脱して再スタートするために足がかりがほしいー。

 どれも切実。しかし共通しているのは、上記の希望を実現するにあたって「正社員としてフルタイム」という働き方がきわめて不向きなこと。上記の事例はまた、高度経済成長期の日本社会では例外扱いだった離婚や介護、起業、若い人が就学・就労しない/できないことの一般化も現しています。日本型雇用慣行の解体も手伝って顕在化したこうした人々のニーズこそ、現代の世相を反映しています。

 

勤め人のメリット最大化が可能

 第3章では派遣社員のメリットが 詳述されています。勘違いされてる方が多いのですが、健康保険と構成年金保険は「概ね2ヵ月を超える雇用期間があり、1日または1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数とが一般社員の4分の3以上であれば適用されます」(118~9頁)。勤め人を続ける理由が社会保険を会社が負担してくれるから、なら派遣でも同じこと。「同一の派遣会社から6ヶ月以上継続して勤務していること、労働日の8割以上出勤していること」を満たせば有給休暇も取得できます。

 雇われの立場に嫌気がさした人へ起業が勧められることもありますが、単純に他のことと両立したいなら割り切った働き方ができる勤め人へ転換するのもアリです。直雇用だと求人に応募してから就業するまでに余分な工程が多く、それを避けたい人にも派遣という選択肢は注目に値するでしょう。

 

みんながフルタイムで週5日働きたいとは限らない

 本書では、非正規雇用を選ぶ理由が必ずしも不本意な理由にもとづくものではないことを挙げています。

 

非正規雇用者の8割以上が、「自分の都合のいい時間に働きたいから」「家計の補助・学費等を得たいから」「家事・育児・介護等と両立しやすいから」「専門的な技能を活かせるから」などのポジティブな理由があって、非正規雇用という働き方を選んでいます。

 

 そして著者は続けます。「みんながフルタイムで週5日働きたいわけではありません。みんなが会社本位、仕事最優先で働きたいわけでもありません」。

 やりたいこととその資金調達のための労働はキッパリ分けたい、生活費はガッチリ稼ぎたいが退勤後は子どもとの時間を確保したい、介護を抱えながらもわずかでも働いて収入&社会とのつながりも得たい、学卒からブランクがあって働いた経験はないけど一歩を踏み出したいー。そんなニーズにとって、派遣という働き方は、選びようによってライフステージに合わせて調整ができる、融通がきくといえるでしょう。

 

期せずして企業横断的な業界の見方ができる?

 順序が前後しますが、本書は派遣社員は「会社本位ではなく、仕事本位で働ける」ことをメリットとして挙げています。同じ業種を複数の会社で経験すれば、ある特徴や問題が業界固有に共通するのか、一部の会社内部の問題にすぎないのか分かってきます。すると、会社に自分を重ね合わせたり、たかだかその会社内部でしか通じない慣行に縛られたり、人間関係に巻き込まれたり、業務を進めるためだけに根回ししたりというわずらわしさとは距離を置くことができます。労使関係の論考では、日本の労働組合が企業内組合であるために、労働者を守るための企業横断的な規制が確立しなかったことが問題視されてきました。この点、派遣労働を通して、企業の垣根を超えた規制やルールの確立まではいかなくとも、企業内の慣行を相対化し、業界そのものを冷静に眺める視点を働く側に形成するきっかけとなるかもしれません。

 

おわりに

 ここまで書いてきて、自分の最初の記事を思い出しました。上の都合で契約時と全く違う業務にポンポン回されること、都合の良い時だけメンバーシップを強要される不都合さを思えば、非正規雇用の中でも直雇用・フルタイムの働き方はつくづくメリットが少ないですね・・・春節で旧暦でも年が明けたので、いわきびも試行錯誤してみます。