いわきび、森の明るみへ

四国の片隅から働き方や住まい方を再考しています。人生の時間比率は自分仕様に!

時短レシピと家事担当者の主体回復

 SNSでつくり置きレシピのアカウントをよく眺める。そのうちお一方はよく見ると、常備菜を作って数回分の食事をしのぐというより
短調理のレシピを積極的に発信していらっしゃる。めんつゆや電子レンジの活用、火の通りやすいor味のなじみやすい食材の切り方、加熱や投入のタイミング―。
それらはすべて、いかに作り手に対し煩わしさを避け、負担を減らし、料理をすることのハードルをできるかぎり下げるかに主眼を置いている。

 料理をはじめ家事の負担とはたんに「タスクが多いこと」ではない。一つにはタスクをこなす手順や優先順位、先取りや先送りの自己決定権が
家事をやる側にないことである。いま一つにはタスクの主導権が家事労働者にあったとしても、「家事の足場となる空間をタスクがこなせる状態
まで整えること」から出発しなければならないことだ。たとえば流しや水切りにたまった食器を洗い片づけること、洗面所や脱衣所に出っぱなしの
モノをしまうこと、空になった洗剤や調味料の補充や容器の移し替えなど「名前のない家事」に含まれる作業をやってから、初めてタスクに
着手できるのだ。

 時短レシピは加工食品やテクノロジーを駆使して調理ができるセッティングの段階から後片付けの負担までカバーして、手間を省くようにできている。
家事はたいてい一つのタスクだけに専念することはあまりなく、洗濯機を回している間料理をする、お湯を沸かしている間食材を切る、など「何かをしている間に別の何かに着手すること」が大半だ。栄養バランスも偏りが少ないよう考え抜かれている。調そもそも生から料理する食材の残留農薬や添加物、成長ホルモン剤による脅威を考えると安全で健康な食事を実現するには生産段階からの規制が必要なことも多く、家事労働者の自己責任で食の安全を確保できるものではないことも視野に入ってくる。
味料投入や味付けは作り手自らがするレシピも多い。出来合いのものを受け身で消費するだけでも、味の限られたパックやレトルト(も使用するが)に食事を明け渡すのでもない。時短レシピが提供するのはおそらく、作り手の主体回復の一つだろう。

 これらをまだ知らない家庭内調理担当者は何をやってしまいがちか。
 料理もほかの家事も区切りがほしい。切れ目なく他人のつごうでタスクの量も段取りも決められ自分の労力と時間を奪われるのは辛い。
 だから、無理やり区切りをつける。物事に切り上げの印を刻み、始末をつける。残った料理を、また一回分で食べきれない量のあまり日持ちのしない料理を作って別の容器に移し、ラップで包み、また蓋をして、冷蔵庫に入れて扉を閉める。で、忘れる。

 もし家の中に、包んで蓋をして別の容器に入ったモノが扉を閉ざされた場所にたくさんあるとしたら、それは大量のモノやタスクから距離を置きたい心理の表れかもしれない。私たちはありふれた慣習や溢れるモノをもっと手放してよいし、過剰なモノやタスクを強制する市場・流通体制・慣習から離れそれらを断ち切る自由も本来持っている。時短レシピが少しの主体回復を促すならば、わが手でわが暮らしを作ってゆく一歩となる気づきは生活様式のあらゆる局面に波及していくにちがいない。