いわきび、森の明るみへ

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前田正子『無子高齢化ー出生数ゼロの恐怖』から言えること

無子高齢化 出生数ゼロの恐怖


 人口減少、人手不足、少子化、高齢化、若者の貧困化、日本国全体の貧困化—。これらが一つの糸で結ばれるのが本書である。
 これらの問題は近年頻繁に論じられるようになったものの、それぞれ個別に語られることが多く、まして若者支援や国内労働市場における女性の低賃金を議論の要素や射程に組み込んだ主張はなかなか表に出なかった。


 なぜこれほど少子化が進んだのか?団塊ジュニアから生じるはずだった第三次ベビーブームが起きなかったからだ。
 なぜ起きなかったのか?1993~2005年にかけての学卒者にあたる就職氷河期世代への支援対策を放置したからだ。
 なぜ放置したのか?この世代を不安定な非正規雇用に押しとどめることで、彼らの親にあたる団塊世代の正社員雇用を守ってきたからだ。

 「最も有効な高齢化対策の一つは少子化対策(p.84)であり、若者への「就労支援と貧困対策こそ少子化対策」(p.142)であるにもかかわらず、それらは果たされなかった。


 私が本書を有用だと思うのは、その背景・要因として就職氷河期世代の犠牲を取り上げていること、労働と家庭における女性の位置づけー男性稼ぎ手の家計補助とされてきたゆえの低賃金、安定雇用の欠落、専業主婦が介護や育児を無償で一手に担わせるモデルの残存ーへの言及があるからである。


 バブル崩壊以降、日本の雇用慣行は経済のグローバル化にともなう産業構造の変化に対応できず、1995年の日経連『新時代の「日本的経営」』方針以来、国内企業は非正規雇用の増加で延命をはかってきた。正社員雇用やその給与、福利厚生が縮小低減されていくなかで、結局日本は日本型雇用慣行に代わる成長戦略も労働・社会参加のルートを生み出すことができず、三十年間にわたって家族形態や社会保障設計においても「昭和レジーム」から脱却できなかったことがわかる。

 このことが、現行の生産年齢人口とくに就職氷河期を経験した30~40代にさまざまな困難と不利益をもたらしている。

 本書ではダブルケアへの言及がある(p.36)。育児と介護の両方を担う負担を考えると、晩婚カップルは出産を躊躇するだろう。

 また子育て関連施策の社会保障への移転が進まなかったことに関して、介護の危機は比較的共有され介護保険など制度確立につながったのに対し、子育てに対する公的支援の必要性がなかなか理解されなかったことも書かれている(pp.80-83)。子どもを産み育てることは個人の私的な問題であり、私的領域である家庭に丸投げしておけばよい、という考えは自己責任論とともに根強い。本書ではこの考えを否定し、人生前半(=若い世代)への公的支援の必要性を主張する。

 さらに、地方在住の高卒者にもふれている(pp118-121)。2000年前後、「高卒事務系の仕事がなくなり、求人は大卒者へとシフト」し、「高卒者の有力な就職先であった製造業が失われ」「残った製造業は従業員の非正規化を進めた」。失われた三十年で最もひずみを受けたのが地方在住で家庭の裕福でない高卒者であったことを忘れてはならない。地方で起きた疲弊はやがて都市部にもおよぶだろう。

 いまや「人口減少を上回るスピードで現役世代が減」り、これまでどおりのサービスもインフラもやがて維持できなくなる少産多死の社会が到来しつつある。人口が減っていくことを前提にインフラを維持管理できる規模に組み替えなくてはならない。これ以上若い世代をないがしろにしては、高齢者が自立したくとも介護されたくとも、サービスの担い手がいなくなるだろう。「家計補助」ではない現役非正規労働者に生活できるだけの賃金を手渡すことが急務であり、最も有効なのだ。でないと社会は維持することも再生産することも不可能になる。

 平成はつくづく人材養成の機能や負担を放棄し続けた時代だったといえる。企業は即戦力要求のもとにOJTや研修を放棄してきた。有期雇用者を数年で置き換え続けるモデルでは技術継承もままならない。社会参加のルートが労働、それも正規雇用での労働にほぼ限られていた日本では、そこを外れると結婚や子どもをもうける機会も失うことを意味してきた。教育も改革と称して予算・人員・公的責任の縮小がなされてきた。それは社会統合のコストを手放すことでもあった。その結果、どこともつながらない社会被非排除者が膨大に生み出された。

 それは大きな損失であり、人権の否定だった。若い世代が社会へ参加する最も大きく主流たる回路である労働が、徹底的に損なわれた時代でもあった。本書の指摘と提言は、今後の社会展望を語るうえで不可欠の大前提といえるだろう。