いわきび、森の明るみへ

四国の片隅から働き方や住まい方を再考しています。人生の時間比率は自分仕様に!

Hans Blumenbergのこと

 
 祝福を。
今日は私の最も大切な哲学者・ハンス・ブルーメンベルク(Hans Blumenberg)をご紹介します。「隠喩学」(Metaphorologie)(メタフォロロギー)という概念のもとに、「絶対的メタファー」の変形によって表示される世界理解の変化をたどりつつ、哲学・神学・科学・美学・文学など広範な学問領域を自在かつ精緻に考察しながら、思想史を絶対的メタファーの変遷過程としてとらえた哲学者・思想史家です。

 プロフィールは法政大学出版局サイトより引用。

(Hans Blumenberg)
1920年ドイツのリューベックに生まれる。母はユダヤ人で、戦争中ナチスの迫害を避け身を隠していた家の娘と結婚する。キール大学で教授資格を取得、同大学を皮切りに、ハンブルク、ギーセン、ボッフム、ミュンスターの各大学で教鞭をとる。最も近い関係にある哲学者はカッシーラー。〈詩学と解釈学〉グループ(ギーセン)の創立メンバー。96年3月75歳で死去。代表作『近代の正統性』で、〈世俗化〉としての近代という一般的に認められていた歴史理解に根本的な異議申し立てを行い、近代の起源を中世との機能的連関の中で明らかにした。また、現代の自己理解の前提としての啓蒙主義の啓蒙というみずからのプロジェクトを、『コペルニクス的宇宙の生成』(75*)『神話の変奏』(79*)でさらに深化させた。80年、ドイツ言語文芸アカデミーの G. フロイト賞を受賞。独自の論理で哲学・神学・文学・科学を横断的に論じ、歴史理解の地平を比類なく拡大させたその仕事は、わが国では未知の巨峰と言って過言でない。他に、『テロルと遊び』(71共著)『観想者の破綻』(79)『世界の読解可能性』(81*)『トラキアの女の笑い』(87)『生活時間と世界時間』(86)『洞窟の出口』(88)などがある。(*は法政大学出版局で翻訳刊行)

 導入・入門書的な解説を読みたい方は、村井則夫氏による『人文学の可能性―言語・歴史・形象―』(知泉書館、2016年)をどうぞ。
https://www.amazon.co.jp/%E4%BA%BA%E6%96%87%E5%AD%A6%E3%81%AE%E5%8F%AF%E8%83%BD%E6%80%A7%E2%80%95%E8%A8%80%E8%AA%9E%E3%83%BB%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%83%BB%E5%BD%A2%E8%B1%A1-%E6%9D%91%E4%BA%95-%E5%89%87%E5%A4%AB/dp/4862852327


 彼の文章はとても難解なうえ学派として位置づけが難しいこともあり、日本ではあまりその存在は知られていませんでした。主著のヴォリュームは半端なものではなく、先述のように多様な学問分野を縦横に行き来するため、それなりの背景知識がなければ楽しむことは困難です。あちこちに散りばめられた鋭い論考を拾いつつ、自分が背景知識を持たないジャンルの一段落を理解するのに専門書を数冊ひもとくこともザラでした。

 しかしそのようなブルーメンベルク哲学を貫くのは、
「現実の絶対主義(Wirklichkeitsabsolitismus)からの解放」という主題です。メタファーや象徴、イメージの創出は、人間存在を脅かす現実の圧倒的な不条理や危機に対する応答として、現実の馴致に役立てられてきたという着想が根底にあります。

 科学の進展や技術の発達をきわめたかにみえる今日、未曾有の災害や事故は起き、人間の無意味さも無力も何ら解決していません。SNSに日々溢れる数多のイメージ、表象も、じつは理不尽な現実を自らの手玉にとれるものとしたい、世界を手中に収めたいという欲求の所産にさえ見えます。


 いま、彼の著作は大半がズーアカンプ(Suhrkamp)社より刊行されております。翻訳の出版もこの十年ほどでだいぶ進みました。

 初めて読みたい方へのイチオシはこれ!『われわれが生きている現実』(村井則夫訳、法政大学出版局、2014年)
http://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-01019-4.html

小論ながら彼の思想・主題が凝集されています。とりわけ筆者が瞠目したのは「自然の模倣ー創造的人間の理念とその前史」でした。

 短い論考ならこれも読みごたえアリです。『光の形而上学 真理のメタファーとしての光』(朝日出版社、1977年)。
https://www.amazon.co.jp/%E5%85%89%E3%81%AE%E5%BD%A2%E8%80%8C%E4%B8%8A%E5%AD%A6%E2%80%95%E7%9C%9F%E7%90%86%E3%81%AE%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%AE%E5%85%89-1977%E5%B9%B4-%E3%82%A8%E3%83%94%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%BC%E5%8F%A2%E6%9B%B8-%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AF/dp/B000J8Z58A


動画もあります。彼の論考をざっくり知りたいなら以下

ord.yahoo.co.jp


親しみやすいドキュメンタリーはこちら

ord.yahoo.co.jp



また1967年のラジオ講演もアップ中です。

ord.yahoo.co.jp


また、こちらのサイト
「STUDIA HUMANITATIS 人文諸学に惑溺するすべてのアマチュアのために」
http://book.geocities.jp/studia_humanitatis_jp/index.html

には少し前の出版事情や原語文献の情報が載っています。

「思想史の森へ 推薦図書」より
http://book.geocities.jp/studia_humanitatis_jp/HistorybookIV.html

「口舌の徒のために」より
http://book.geocities.jp/studia_humanitatis_jp/gewesen19.html

著作リストも。
http://book.geocities.jp/studia_humanitatis_jp/Blumenberg.html


最近の動向。
研究グループ「詩学と解釈学」についての記事。
https://www.nzz.ch/feuilleton/debatte-herrschaftsfreie-diskussion-aber-keine-kritische-theorie-ld.142840

サイト内の名前をクリックするとブルーメンベルク関連の別記事も読めます。
https://www.nzz.ch/feuilleton/buecher/eine-frage-der-belichtung-1.18578697


書籍。1945~58年に書かれた論考が出版されています。
http://culturmag.de/rubriken/buecher/hans-blumenberg-schriften-zur-literatur-1945-1958/100839


さる4月22日にはライプツィヒでシンポジウムが開催されたもようです。
blumenbergposthumous.blogspot.jp

 以上、忘備録を兼ねて情報をまとめました。マイナーな哲学者かもしれませんが、ぜひ一度触れてみてください。